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2006年 10月 04日

カンディンスキーの芸術論

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抽象絵画の先駆者のひとりであるワシリー・カンディンスキーの書いた芸術論の著作に"Concerning the Spiritual in Art"がある。ロンドンのTate Modernにて入手した。ネットでも読めるらしい。和訳すれば「芸術における精神性について」であろうか。訳者の解説などついているが、カンディンスキーの書いた部分は比較的短く、読みやすい。ただ意味を噛み締めるのには時間がかかる。
自ら絵を制作する作家としての「眼」から見た芸術論なので、わかりにくいところもあるが同時に直感的で説得力がある。中で面白いと思った箇所を紹介しよう。自己解釈的な訳なのでそこのところはご容赦のほどを。

真の芸術家は内面の必然性からものを作る。そしてそのような芸術家は上昇運動にある三角形の頂点に位置し、その頂点は「今現在」では前衛であり理解されにくいものであるが「明日未来」ではそれは当たり前のことのように受認される。そして真の芸術家たるものは自身の衝動を己の作品によって見るものに喚起することができる。

音楽が芸術の最高の師匠である、と信じていたカンディンスキーはピアノに芸術家を喩える。

色彩は鍵盤である。眼はつちである。そして魂は弦の多くはられたピアノである。芸術家はそのピアノを奏でる手である。鍵を使いわけて魂を揺さぶるのである。
故に色彩の調和は人の魂への波動のみに呼応するものであることは明白であり、内面の必然性へ導く要素のひとつである。

絵画の使用できる武器は「色」と「形」のふたつである。色彩は例えば「赤」という言葉を聞いたときに頭の中に赤の世界がひろがるのであるが、それが一定の「形」を与えられたときに具体的に魂へ働きかける。「形」は「色」を分離する線にすぎない。形は内面的意義である色を表すための外面的表現である。 故に形と色はある"object"ー「対象物」ー例えば人間であったり風景であったりーの代用である。人間は潜在意識下にまたはそれを超越して、この対象物に反応する。

芸術に"must"ーであるべきーは存在しない、芸術は自由である。

色彩をおおまかにわけると「暖」と「寒」、「明」と「暗」である。
暖色である黄色は肉体的、地上的、外交的、寒色である青は精神的、天上的、内向的。この二つはアンチテーゼである(A).
もうひとつのアンチテーゼ(B)は明である白と暗である黒。白は永遠なる不協和音であるが未来(誕生)がある。一方黒は完璧なる不協和音にて未来が存在しない(死)。
緑は静止、自己完成、赤は動、拡大を内包するアンチテーゼ(C)である。
最後のアンチテーゼ(D)であるオレンジは赤に含まれる黄色の能動的要素、紫は赤いに含まれる青の受動的要素。
この色彩理論を図式化すると以下のようである。3組のアンチテーゼの円の左右に静寂の白と黒がくる。
実際色彩というのは赤、黄、青の3原色と白黒からすべてが生まれるのであるからこの公式はその神秘をカンディンスキー方式で解明してくれる。

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そしてカンディンスキーの論理を読んでいて、芸術の抽象化、及び色彩と形の必然性が少し見えて来た気がする。抽象画を見て何が描かれているのかさっぱり、という意見は理にそぐわない。というのもすべての色や形は人間の深層心理になんらかの働きかけをするべきものだからだ。

自然を単に模倣したものはまったく力なくキッチュで醜い。自然の中から抽出された必然性を表すことが絵画であるのだろう。これはいわゆる具象画であれ抽象画であれ、すべての表現にあてはまることである。

カンディンスキー著作集 全4巻
ヴァシリー カンディンスキー Wassily Kandinsky 宮島 久雄 / 美術出版社

by jamartetrusco | 2006-10-04 22:43 | Libri (本)


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