トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

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2009年 06月 06日

デルス・ウザーラ

黒澤明監督の映画はほぼ全部観ている。どの作品もそれぞれの素晴らしさがありどれも観た後に
ずっしり心に響くものがある。そして物語の構築力のうまさ、映像の魅力はまさに「天才」としか
言いようがない。
その中で唯一まだ観ていなかった映画が「デルス・ウザーラ」であった。
ロシアとの協力のもとに監督した黒澤映画の唯一国外制作、せりふも全部ロシア語である。
デルス・ウザーラの髭面のクマソのような風采の顔の印象が強くなんとなく興味をそそられなかった。実際にデルス・ウザーラという名のこの人物の物語の背景となる実話についても全く無知であった。
そして今回手にいれたDVDでこの映画を初体験し、この映画の奥深さにただただ感動した。
やはり黒澤は天才である。1975年制作のこの映画。「どですかでん」が不評に終わり、その後、自殺未遂まで至った黒澤監督。日本国内からそっぽをむかれて資金難に陥りながら作り上げたのがこの映画である。苦難を克服して制作に向かうこの原動力自体がすごい。ロシアと日本との往復してできあがったこの希有なる映画は1902年から10年かけてシベリア沿海地方のシホテ・アリン地方の地図を作るために政府より派遣された探検隊隊長のロシアの探検家ウラディミール・アスセーニエフの記録をもとにしている。
冬は厳寒、未踏の森林や山川などを歩きながら探検するこの部隊とたまたま巡り合いそのガイドととして探検隊の重要な一員となるのが先住民のナナイ族のデルス・ウザーラなのである。
狩りをしながら自然の隅々まで理解し、自然を畏敬し、しかしその中で生き延びる力を備えるこの不思議な男の存在は時とともに隊長の心を捉え、はては無二の親友となっていく。
最後に自然へと帰化して死すデルスの人物すべての語るのは現在の環境問題の根本にある人と自然との共存というテーマである。70年代まだこのようなテーマなど考える人も少なかった経済成長期にこのような真実を語る映画を作る黒澤監督の偉大。
それも自然と人間の関係を説教ぼく語る映画でない。人と人との真の心の交わりを通してじわじわと伝えてくるのである。そしてシベリアの自然の壮大かつ恐ろしいばかりの野生の美しさを視覚に
おさめるその手腕。映画作りの上手さと物語性は黒澤映画以外の何ものでもない。

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by jamartetrusco | 2009-06-06 00:11 | Cinema (映画)


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