トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

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2010年 02月 19日

「昨日の世界」

ユダヤ系オーストリア人のシュテファン・ツワイクの「昨日の世界」を読んでいる。
世紀末の文化と芸術の円熟した旧き良きオーストリア・ハンガリー帝国の栄光を若き時代に生き、その後第一次大戦による悲劇、ナチ台頭による迫害を逃れて祖国脱出をして英国に亡命,米国を経て最後にはブラジルに渡る。1934年から書き始めた自伝である「昨日の世界」を書き終えた42年出版社に原稿を送った後、妻とともに自害、その翌年この本は出版されたというかなり劇的な背景のある本である。
ハプスブルグ絶世期の自由な文化人が謳歌するウィーンに織物工場を持ち金銭的に裕福だった家庭に育った若き日のツワイク。書き出しのページが印象深い。
要約するに、このような安定した黄金時代が永遠に続くものだと信じていた、過去にあった民族間や国同士の戦争など夢のようで国境すらなくなるユートピアを原体験していると思っていた、
と書く。その当時ヨーロッパのどの都市よりも文化的に栄え、民族間の軋轢もなく互いに互いを
尊重しあって共存することのできる都市だった、というウィーン。そして一歩外に出れば自然が
ある、という環境。ある意味では現代都市のいずれもが目指したいお手本のような社会を築き上げていたかに見える。それが一発の銃砲で崩れさっていく、という悲劇。
文化と芸術の中心地であるウィーンの絶頂期を味わった後に来る不穏な状況をまざまざと体験して、その落差はどれだけ悲劇的だっただろう。。。
世界の安定は築かれたと信じていたこの作家がその後世界の脱落をみてどれだけの悲痛と憂鬱に落ち込まれたか想像するにやさしい。
世紀末から第二次大戦へのヨーロッパの精神背景を理解するのに興味深い本である。
今の時代への教訓も多く隠れているに違いない。
この世界は一歩前進しては2歩後退し、という状況が永遠に続いていくのであろうか。
いつの時代に生きても同様の幸福感とそれに相対する悲劇感があるのだろうが。
波の頂点とどん底の繰り返しのように。
時代の重みに押しつぶされないように、外界の安定如何に関わらず自身の心の安定を目指すことしかない。

異常に細かい活字でまたイタリア語で読んでいるのでいつになったら読破できるかが唯一の
難であるものの。


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by jamartetrusco | 2010-02-19 02:30 | Libri (本)


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