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トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

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2010年 10月 30日

夏と冬の狭間

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明日10月31日は世界で祝われるハロウィン祭の日。
そして今年は今週末が10月最後の週末に当たるのでヨーロッパでは夏時間から冬時間に変わる日である。31日、日曜日の深夜の3時が一時間早まり2時となる。ハロウィンはアメリカを中心に広めた祭りであるが、もともとはアイルランドのケルト文化にあったSamhain—文字通り「夏の終わり」を意味するサウィンの祭りーが起源である。アイルランド人の移民が多くアメリカに渡り、この祭りを普及させたのであろう。当時のケルト文明では11月1日が新年の始まり。1年を光が明るい前半と暗い後半のふたつに分けたのである。時期が交代する一瞬の狭間にこの世とあの世の壁が薄くなる。その時に死者の魂がこの世を訪れ彷徨うという云われである。良き先祖の魂にはご馳走を用意して家に招き、悪い魂は火をともして追い払う。悪い魂に取り憑かれないように自らお化けのような仮装をする。これがハロウィンのTrick or Treat?, お菓子か悪戯か? パンプキンをくりぬき火をともす、そして仮装パーティーの由来である。同時に10月終わりに収穫を終えて冬に備え焚き火を燃やすというのが儀式であった。
この焚き火の儀式はイギリスではガイ・フォークス・デーとして形を変える。ウェストミニスター国会議事堂に放火した罪で火あぶりの刑になったガイ・フォークスを象って藁人形を焚き火に入れて燃やす祭りである。収穫の儀式とは異なるどこか残酷でしかも喜劇的な祭り。国を変えて色々な祭りと成り代わる面白さ。
現在の夏時間、冬時間の交代もこうしてみると歴史的発生の理由があると言える。夏と冬の狭間に現れる幽霊達、ゴシックホラーのような面白みがある。

さてこのハロウィン祭、最近でこそイタリアでもパンプキン、仮装のお祭りの要素が定着してきたが、もともと11月1日はすべての聖人を祝う祭り-フェスタ・ディ・オンニサンティーである。カトリック教の殉教した聖人達の魂を弔うという意味の日である。そして翌日は「死者の祭り」、イタリア人がこぞって先祖の墓参りをする日。ハロウィンの語源も実は「諸聖人祭りの前夜祭」ということであることから、イタリア起源の祭りが近年になって形を変えて逆輸入されたとも思えてくる。
いずれの国にも似たような風習があるという立証であるが、紐を解いてみるとこの「諸聖人祭」というはカトリック教会がローマ時代の異教の祭りに取って代わるものとして発明したようである。カトリック以前のローマではケルトの祭りと同じくレムリア(Lemuria)と呼ばれる死神レムーリを弔う祭りで、本来5月9日、11日、13日に祝ったのだという。5月13日は果実の女神ポモーナを祝う収穫祭でもあった。しかしカトリック教会が強くなる4世紀頃にはこのレムーリの祭りは異教的でけしからんということでそれに代わるものとして殉教した諸聖人の祭と決め日にちも5月13日から11月1日に移し、翌日11月2日を「死者の祭り」に当てたということである。

死者を祀る、収穫を祝う、人間の生きる営みに密接につながる事象が交錯しあって国ごとに形こそ違え同じような祭りとなっていく過程。どちらが先でどちらが後に出現したかわからないにせよ、ヨーロッパとはギリシャ、ローマそして北方の文明の大きな流れがあって発展していったのだな、それでこそ今のイタリアがあり、西欧があるのだな、とつくづく思うのである。「すべての道はローマに通ず」の諺は確かである。

by jamartetrusco | 2010-10-30 21:00 | Storia (歴史)


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