トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

jamarte.exblog.jp
ブログトップ
2011年 07月 03日

美のヴェネチアーVenezia Biennale d'Arte 

ヴェネチアに数日滞在してきた。この街の特異性は車の不在である。ラグーナと呼ばれる内海に浮かぶ島であり、運河を挟んで両側に街が発達してできた。
グランカナ−レと言う中心の運河と街中を四方八方に流れる小運河、それをつなぐ橋の数々。
まるで迷路のようになった道筋は一度方向を見失うとどこにいるやらわからなくなり、そして袋小路の道も多いため、暗闇で間違うと運河にどっぽり、なんていうこともなきにしもあらず。もちろん水路を走るのは船やゴンドラ。時々渋滞するのはゴンドラのみである。
船の出すモータ−の音はあるものの年がら年中横を走る車やモーターバイクの騒音の不在はこの街を世界で無二一つの特別な水上の都市、朽ちる儚さをたたえた蜃気楼、人為の楽園のような様相を与えている。

ヴェネチアは好きな人とそうでない人がはっきり分かれると思う。朽ち果てる美、デカダンスの美を愛する人、
また水に浮かぶこと、土に足が着いていないことに不安を感じる人、自然が側近していないことに息苦しさを
感じる人。
私は心底ヴェネチアに魅了されている一人である。

16世紀以降、オスマントルコの勢力に圧倒されるまで、そしてその後18世紀末にはオーストリア・ハンガリー帝国下に組み込まれるまで、海港都市としての力を発揮しながら共和国として、また洗練された文化都市として驚くほどの繁栄を見せた。

ヴェネチアとフィレンツェの違いはフィレンツェがメディチ家の過去の栄光のみにあまりにも頼り過ぎ、「今」に目が向いていないのに対して、ヴェネチアは歴史を体現しながら「現在」を生き、「現代」を表現する街であるところである。

この街で開催される映画祭はもとよりアートビエンナーレはあまりにも有名である。
アートビエンナーレは建築ビエンナーレと交互に2年おきに開催される。今年で54回目を迎え、中心となる展覧会のテーマは毎年代わり、今年のタイトルはILLUMInations(イルミネーションズ)ー光。監修はスイスの美術史家、キュレイタ−のBice Curgierービーチェ・クリガー女史。16世紀のヴェネチアの画家ティントレットの
暗闇と光の対象をダイナミックに表した3枚の名画を主軸に現代作家の様々な表現が集まった。そして
数えきれないほどの鳩の剥製が展示室の天井から見下ろしている。

6月頭から11月末までという長い期間を使っての街をあげての展覧会であるアート・ビエンナーレはGiardini(庭)と呼ばれる自然の木々や運河のある公園のような公共スぺースに建てられた各国のパビリオンでの展示と、90年代後半から追加されたアルセナーレという元造船場の巨大スペースの2会場にての展覧会がメインである。これに加えてヴェネチア全域に渡って点在する屋敷や教会内でパビリオンを持たない国を代表する作家展が企画される。また関係展覧会、イベントも数えきれないほど。1〜2日ではとても網羅できない。

各国館の展示の中で今年はドイツ、イギリス、フランス館が良かった。いずれも表現が具体的、象徴的、
「物体」と「空間」から放たれる力に重きを置いたものである。コンセプチュアルでないからこその新鮮さ。
またアルセナーレ会場の様々な表現の中でとりわけ光っていたのはスイスの作家ウルス・フィッシャーの蝋でできたジャンボローニャの「サビニの女たちのの略奪」の原寸大の彫刻。本物はフィレンツェのウフィツィ美術館前にあるランツィの回廊にある。3人の肉体の絡み合いからできたこの巨大彫刻作品はただの蝋製の復元だけであればなんということもないのだが、実はひとつの巨大ろうそくとして火がともっており頂点から時間とともに解けていく仕掛けである。時間の移ろいと光をテーマにした微妙な詩情と解けていく過程の強烈なイメージの両極を内包する作品である。作家としての最優秀賞である金獅子賞を受賞したのも納得が行く。
この作品もドイツ、イギリス館での展示と共通した「物体」の持つダイナミックな美と力を感じる。
しかし6月末でこのぐらい解けてしまっているということは11月末まではとても保たないだろう。「見たい人はお早めに」ということだろうか。

別にフォルトゥニー美術館(Palazzo Fortuny)にて2年前と同様の素晴らしい展覧会も開催されており、3日間、美術三昧にて過ごしてきた。これについては別記する。

今年は特に観光客の多く集まるサンマルコ広場付近は極力避けて、地元の香り濃厚な通りを選び徒歩のみで散策するヴェネチアを満喫した。ヴェネチア市民でないと水上バスは高くいつも満員。観光客の顔ばかり見るためにここに来たわけでない。とりわけヴェネチアの魅力を知るにはなんと言っても歩くのが一番。通りをひとつ入るだけで人気のない路地が開ける。朝からバーで一杯やる地元のおばさんやおじさんの姿を見なければベネチアを見たことにならないだろうから。

ニコラス・ロ−グ監督の70年代の映画Don't Look Now (邦題は「赤い影」)を観たことがある方はいるだろうか。ヴェネチアの暗闇の静寂と迷路をこれほどうまく描いた映画はない。そして大変怖い映画である。



f0097102_15465066.jpg

[PR]

by jamartetrusco | 2011-07-03 23:01 | Paese (土地柄)


<< 友人のジュエリー作家展覧会のご案内      フィレンツェのPatrono >>