2006年 05月 11日

奇異な画家ポントルモの日記

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 今日はフィレンツェ、マニエリズムの画家ポントルモ(1494〜1557)について。静寂な感じの初期ルネンサンスの画家(マサッチョやピエロ・デラ・フランチェスコなどその代表)が好きだった私にとってマニエリスム派の絵画はなんだか不思議な色調と、延びたゴムのような身体と、不自然な構図と、という感じで以前はさほど美的に好きではなかったのです。それに対してアレはなんと言ってもマニエリズム派でした。なぜかというと描いている主題の裏に隠されたものがずっと複雑で、感情的で、もっと異教的であると。いかにもアレらしい。今では私も人間の不可思議な生き様をそのまま見せてくれるかのようなマニエリズムの画家達にとても興味を持っています。


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マニエリズムというのは1530年から1590年までの盛期ルネサンスとバロックの狭間に現れた美術史上の一傾向で、名称自体、すでにバザーリが1568年に出した「美術家列伝」の中で、"manniera"、「様式」という言葉を同胞の画家達について言及する際に使っています。簡単に一範疇に入れにくい様式です。古典的ルネサンス様式を享受し、豊かで安定した社会を謳歌した時代が、ローマの攻略、Sacco di Roma (1527年)によって根底から崩され、不穏な世の中の状況から、画家たちも、より神秘的な、内的な表現を求めて行ったーそんな感性が露となった表現です。芸術はどの時代でもどの国でも、安定した社会から起こる静寂とした古典的様相のものから、社会の不安をそのまま反映したような劇的で、感情の表出をあからさまにしたようなものがあるようです。

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さてそのような時代を代表する画家ポントルモ。バザーリの本にも彼が人嫌いで、鬱病的な、気むずかしい人物であったかが記されています。制作中はまったく人を寄せ付けなかったことも知られています。また屋根裏に住んでいて、自分の登った梯子を誰も登れないようにはずしてしまうらしい。
もうひとつ、とても興味深いことはポントルモが生涯最後の2年に日記をつけていたことです。
それもかなり不思議なのは、孤独の中で今は残念ながら残っていないフレスコ画を制作している間、毎日何を食べたか、腹の具合がどうか、天気はどうか、そんなことのみを日記に記していることです。
さらに「20日、木曜日、叫ぶ人物の頭をしあげた、夜は子牛を食べた、、、。」といった具合に制作と食事が同じレベルにて語られているのです。その当時、あまり羽振りの良くない画家が何を食べていたのか知る上ではなかなか面白い。卵や子羊のスープ、サラダ、ローズマリー入りパン(pan del ramerinoというが今でもフィレンツェにはあるので、このことでしょう)はよく食べている、そして時々絶食、イースターのときはたまにキャビアも、そして同胞のブロンツィーノとともにするときは少し豪華に豚やレバーが出てきます。ポントルモに対してブロンツィーノはメディチ家の宮廷画家として地位や生活レベルも高かったに違いありません。その辺の軋轢もあったでしょう。
画家というのはやはり何かに「固執」する性格が必要で、彼の場合はとにかく心の状態、制作と食、お腹の状態が切っても切れない関係だったのかもしれません。そして頭が完璧に常識の外を越えるとき、食べることしか、考えにないのかもしれません。生きる、イコール食べる、の図式に戻るのか。

アレに毎日日記を書かしたら何を書くのかな、、なんとなく興味あるところです。たぶんポントルモではなくダリのような日記に近くなるのかも、、、。



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追想:
日記というのはどの時代、どの国も後世になって読むと面白いもの。日本でも清少納言の
「枕の草子」、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の「更級日記」、吉田兼行の「徒然草」など文学として、そして感性の素晴らしさを示すものとしてまさに傑作です。ブログというのもそういう意味で、日記としての価値、案外大事な今の社会現象かもしれません。

画像の説明
1。 ポントルモの肖像画
2。フィレンツェのサンタ・フェリチタ教会の祭壇画「キリストの降架図」、前回訪れたときにはしまっていましたが、ポントルモファンであれば必見です。
3。フィレンツェからすぐのガルッツォのチェルトーザ僧院内のフレスコ画、かなり痛んでいるようですが、なぜかポントルモの故意とも思われるような未完成な趣。フィレンツェにて黒死病が流行った際にポントルモはこのチェルトーザの僧院に隠れて制作したものです。ここは一見の価値ありの僧院です。入場無料で素晴らしい僧院建築と内庭、そしてポントルモが見られます。
4。最後の作品はアレによる「ポントルモ礼賛」です。


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by jamartetrusco | 2006-05-11 19:07 | Arte (芸術)


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