トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

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2006年 11月 17日

滑り台がアートになるとき

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ロンドンのテート・モダンの入り口を入るとまず吹き抜けの奥行きの長いホールに直面する。この長さ155メートル、高さ35メートルの通称Turbine Hallでは2000年の開館当初からさまざまな現代作家のインスタレーション・プロジェクトースポンサーの名前をとってUnilever Projectーが企画されてきた。過去にはLouise Bourgeois(ルイーズ・ブルジョワ)、Juan Munoz (ホアン・ムニョス)、Anish Kapoor (アニシュ・カプール)、Olfur Eliasson (オルファー・エリアソン)、Bruce Nauman (ブルース.ナウマン)、Rachel Whitehead (レイチェル・ホワイトヘッド)の6人の作家がそれぞれ独自の表現方法にて、この広大なホールに見合った大規模作品制作を手がけてきた。
特にデンマーク生まれのエリアソンのWeather Project""(気象プロジェクト)は観衆の関心を集め、人気の高いプロジェクトであった、巨大な霧のかかったオレンジ光を放つ太陽をホール奥背景に設置し、気象が象徴するもの、そしてそれに導かれる想い、瞑想、体験など、人と宇宙の万象との心理的、物理的関わり合いを、極めて圧迫感のある巨大太陽の光のオーラの中に映し出そうとするものであった。じっと見据えざるを得ないこの幻惑的な人工の太陽は人間の古代の記憶を想起させるような瞑想的なものであると同時にどこか神経の吐き気を伴うような魔力を持っていた。

現在開催中の7回目に当たるプロジェクトはベルギー生まれで現在はスウェーデン在の作家Carsten Höllerの”Test Site”(実験現場)と題するインスタレーションである。作家自身かなり経歴が変わっていて、ドイツにて農業経済学者として勤しみ、また昆虫間の臭覚にたよる意思疎通を研究していたらしい。案外美術学校など行っていない方が制限のない想像力が生まれるのかもしれない一例である。
さてこのプロジェクト、平たく言うと巨大滑り台である。長いもので55メートルの渦を巻いた銀色に光る滑り台が大小5種、設置された。
一番長いものは美術館の最上階レベル5から下降するものである。

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ホーラーは以前から観衆と作品との相互作用を目指した空間を使ったビジュアル・インスタレーションを制作する作家である。過去のプロジェクトもすべて訪れる観衆を巻き込んだもので、巨大なキノコを逆さまに吊るした空間に観衆を導くUpside Down Mushroom Roomや、空中に飛行させるFlying Machine、フリスビーいっぱいの部屋のFrisby Houseなど、すべて大規模なスケールの制作作品だ。視覚的、物理的効果をもとに、人間の本能と共通の体験の枠を通して、観る人の頭脳や心理へ作用していく。

滑り台のプロジェクトはすでに以前にもミラノのプラダの本拠地にて行ったことがあるが、その時には、ボスであるプラダ氏の事務所と駐車場を結んで滑り台が組まれるというユニークなインスタレーションであった。

今回のこの"Test Site"プロジェクトは、作家によると、「頭と体に訴える遊技場」であり、「精神病と戦う一手段にもなり得る」そうだ。確かにこの長い滑り台を滑り降りる瞬間に喚起される恐怖、歓喜、驚異など諸々の感情は人間の根源的な本能を極めて直接的、物理的に吐露させ、滑り降りるものすべての人々の頭は一時的に子供の無心に戻るであろう。頭が真っ白になる瞬間。さすがに怖そうで試すのを控えてしまったが、貴重な体験を逃した気がしている。
体験していたらひょっとしてどこか感性に変化をもたらしていたかもしれない。

さらにインタビューの中で、彼は述べていた。滑り台をもっと都市計画に有効に使うべきだ、と。
確かに道路は車に満ち、これからの環境問題を考えると、ガソリンや電気にたよることなく、都市内の簡単な移動が巨大滑り台によって可能になるなら、いかにも夢ある未来的都市が広がりそうだ。悲鳴を挙げて下降していくビジネスマンなどの姿を想像すると思わず笑いがこぼれる。ちょっとしたストレス解消にもなりそうだし、なによりも満員電車より人間的で楽しそうなのは間違いなしだ。 

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by jamartetrusco | 2006-11-17 00:16 | Arte (芸術)


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