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2006年 12月 08日

今年のTurner Prize 受賞者を見て

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英国にて1984年より存続する現代美術家のための賞ターナー・プライズ。
19世紀半ばの画家ターナーの名前が現存し活躍するアーティストに捧げられる賞の名称というのは不思議に思われるかもしれないが、ターナー自身、彼の時代にはその描写法から異端の画家としてみなされていたという事実から、ある時代を先行する作家を選んで与えられる賞という意味合いを持っている。最近では厳密にイギリス人、またはイギリス在住の50歳以下の作家で過去1年間を通じて優れた展覧会、または他の形式での作品呈示を試みた作家に与えられる賞である。そして最終候補者4〜5人の中から1人選ばれる仕組み。この最終候補者はテート・ブリテン内にて選考の前にそれぞれ作品のプレゼンテーションをする。その作品如何によっても審査員の判断は変わってくるということもあり得る。

英国においてはこのターナー賞を獲得するということは現代作家としての名を確立する登竜門のようなものであり、現在活躍中の作家の多くがこの賞の受賞者である。古くはマルコム.モーリー、ハワード・ホッジキン、さらにギルバート&ジョージ、リチャード・ロング、トニー・クラッグ、リチャード・ロング、アニシュ・カプール、ダミアン・ハーストといった今では英国を代表する現代作家が受賞者リストに挙げられる。 2003年にはチャップマン・ブラザーズをしのいで磁器の壷に風刺的な図画を描くグレイソン・ペリーが受賞し、焼き物を使った作家の初めての受賞ということで工芸界は湧いた。

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さて今年の受賞式は、この12月4日にテート・ブリテンにて行われたばかり。久々の女性作家、Tomma Abts (トーマ・アッツと発音するのか)の受賞となった。2000年以来英国在住の外国人作家にも門戸が開けられたため、彼女はドイツ生まれである。過去12年間ロンドンに住み制作している作家である。そして興味深かったのは彼女の表現は驚くべきほど古風で絵画的であることだ。彼女の描く絵はすべてサイズが決まっている。48 x 38cmのカンバス。そしてまったく絵画を学ぶエリートコースを歩んでいない。ほとんど独学で今に至っている。
描くのは幾何学的な形をまるで3次元のように見せる。それでいて完璧に平面である。
そして見てるうちにその形と色に魅了される。まるで催眠術にかかったかのように。
もうすでに構成主義やバウハウスなどのモダニズムの世界で到達したかのような表現のように見えて、妙に新しい。奇抜、特異、手法が斬新、あっと驚かせる、コンセプチュアル、そしてビデオを使った現代テクノロジーというようなものがアートの傾向として捉えられてもう長かった。そのような傾向の中で、まるで時代錯誤のように、伝統的な小さいカンバスに描かれた抽象画。そこに新鮮味を審査員が覚えたのは偶然ではあるまい。小さいカンバスの持つ魔力に惹き付けられそして魅了されたに違いない。

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この作家の受賞でなんとなく勇気が生まれた。というのもアレもどちらかと言うと彼女のような作家であるからだ。特に目をみはるような経歴はなく、ただこつこつと絵画を自分の信念のもとに描き続ける。そして彼女も絵を描く際には平面台に置いて制作するそうだ。これもアレと同じである。こういった地味でありながら自身の世界を築き上げる作家がターナープライズを受賞したこと自体に次世代の表現の確認をみるのである。ありとあらゆる表現を試み、もうどんな表現も陳腐になり、アートの飽食化を感じるこの表現の世界に対して、古風でありながら自身の小さい世界を追求する一画家の存在の大切さを再確認したのではないか。
そしてアレもまだまだ希望を捨てられない、と端から常に応戦するのみである。


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by jamartetrusco | 2006-12-08 04:41 | Arte (芸術)


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