2007年 11月 05日
10月19日の午後、ローマの観光名所のひとつであるトレビの泉が真っ赤に染まった。 相変わらず観光客に溢れる泉に帽子をかぶった男が染料を投げ込んで逃げたのである。 一瞬皆何が起こったかわからなかったであろう。みるみる内に赤く染まっていく泉の水。 大理石の彫刻と赤の泉が超現実的なコントラストを作りだして画像を見るだけでも妙に美しい。 そして現場には"Azione Futurista 2007"(2007年未来派活動)と記された声明文が残されていた。ちょうどこの時期にローマにて開催されていた映画祭への批判と今の社会への批判が織り込まれた声明文であった。 この声明文は明らかに20世紀初頭に台頭した芸術運動であるFuturismoー未来派ーを意識して書かれたものだろう。1909年に詩人であるマリネッティにより唱導された「未来派宣言」に端を発した前衛芸術運動である未来派。過去の伝統や芸術を徹底的に排除し、近代の機械文明による速度を理想とする破壊性を唱える過激な思想に支えられ、20年代当時はまだ社会主義と呼ばれていた後のファシストに受容されられる思想となる。近代文明の黎明とともに出現したモダニズムの一貫である。 カメラに残った映像から、また未来派への言及から、犯人はネオ・フトュリストー新未来派ーと自称する画家であるグラツィアーノ・チェッキーニではないか、という疑いがあがる。 彼は当時の取り調べに対しては自分ではないと否定したが、実際に彼であることに間違いない。 泉の大理石には全く被害なく終わったこの行為は実に象徴的で視覚性に富む。 街起こしには違いないがすでに存在するヴェネチア映画祭に対抗してつい最近始めたローマ映画祭。ローマ市長のヴェルトローニ(現在左翼政党の党首)が映画好きということから開始された祭りである。お決まりのスターが表れ新作映画の初上映をレッドカーペットとともに行うなんの特色もない映画祭である。このレッドカーペットの赤色への風刺も兼ねての赤。 商業主義に走る社会と芸術の陳腐への鋭い批判を込めて赤に染まったトレビの泉。あまりにも観光化したこの名所への皮肉にも見て取れる。 儚いシュールリアリスティックな視覚イメージとしてそこに居合わせた皆の目と心に焼き付けられる創造的エネルギーに満ちたものであったろう。実際に現場にいて観てみたかったものである。 この行為、一部の知識人に大変受けた。過激な広告写真で常に議論を醸し出すベネトンの写真家オリビエロ・トスカーニは当初からこの「赤いトレビ行為」に賛同し、この画家にもうひとつの パーフォーマンスを依頼し写真とした。赤い水に満ちた風呂桶につかったチェッキーニの画像を撮影したのである。赤い水からにょっきり表れた彼の顔。なかなかユーモア溢れる。 60年代に多々起こっていた社会風刺をかねた芸術家達のハプニングなど今では遠い昔の出来事のようである。どこかまだ何かを信じることができた肯定性を孕んだ行為というのが消えてしまった、あるいは不可能になってしまった現在の状況の中で近頃珍しく興味津々と聞いたニュースであった。 Viva artista!
by jamartetrusco
| 2007-11-05 17:17
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