トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera

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2008年 10月 30日

歴史の相対性にてみること

この数週間、西欧対イスラムの文明、宗教対立の危機、テロリズムの脅威が近頃の金融危機の台頭の裏にやや影薄という感じである。いったい毎日の生活をやっとやっと過ごしている我々のような門外漢にとってこの金融危機とは何なのだろうか?
一部の世界の状況をすべて制覇している大物達にとってはこの金融危機すらひとつの金銭的メリットであるかもしれない中で、家や財産を失い、途方にくれる人々もいるのである。
とにかく得体の知れない「悪」を感じるこの頃である。
このような状況の行く末に新たな精神革命が開けるのだろうか。

第二次大戦終了後、さまざまな危機があった。
その事を如実に実感させてくれる極めて開眼的な展覧会をロンドンのV&A美術館でみた。題してCOLD WAR MODERN、「冷戦モダンー1945年から1970年まで」。
装飾美術、デザインの歴史が中核にあるV&A美術館であるから根底には戦後のイギリス、また世界の生活デザイン様式を語る展覧会である。しかし、この展覧会が今までになくずしっと重みを持っていたのは私が実際に生き、体験した時代を扱っていることだ。
第二次大戦の恐怖を終え、平和の訪れにほっとしたのもつかぬま、ヨーロッパの危機を背景に米国と旧ソ連との冷戦時代に突入する。核実験の脅威、ベトナム戦争、ベルリン危機、61年に東西を分けるために築かれたベルリンの壁、中国の文化大革命、そして宇宙開発競争。はじめての月着陸。ガガーリン、アポロ宇宙ロケット、そして60年代の20世紀最後のユートピア思想。宇宙から見た地球の愚かさと儚さ。

米ソ二大国の冷戦の脅威を根底にさまざまな文化が生まれる。今でも大人気を集める英国諜報員ボンドの007シリーズもこの冷戦を背景にこの頃生まれたのである。
そしてスタンリー・キューブリック監督の傑作「ドクター・ストレンジ・ラブ」博士の異常な愛情。宇宙への願望が生んだスプーチニック時代、宇宙服のようなファッションデザイン、「2001年宇宙の旅」の本とその映画化。
展覧会には紹介されていなかったが黒澤明監督の1955年映画である「生き物の記録」は核兵器への恐怖に耐えかねて最後には狂ってしまうある老人の生き様を語る。この映画もまさにこの冷戦時代なくては生まれなかった映画だろう。

私の今までの人生の内、物心つく頃から青春期にかけて世界の情勢を支配した冷戦時代の精神文化をデザインやアート、生活様式を通して目の前に改めて確認したのである。
冷戦時代はある意味で白黒の比較的はっきりした時代であった。

冷戦時代の終焉の肯定的象徴のようなベルリンの壁の崩壊から約20年。冷戦が終わり世界がよりよい平和へと導かれるかと夢見たのも一瞬のこと。冷戦の危機を乗り越えて辿り着いた今現在の世界。善悪の白黒がはっきりしない、もっとたちの悪い状況になっている。ここにまた新たな精神革命が必要であるのは間違いない。
しかしどのような?
人間の存在価値であるはずの芸術、文化がいったいどれほどの力をもって次の世紀への原動力として受け継がれていくのか。芸術すら息切れがしているような今の世界のような気がする。
この20年の足跡としてはっきり発言権を持つのはITとかインターネットとか、すべてコンピューターの進歩に関わる事象だけかもしれない。1970年から2000年までのデザイン史の展覧会をさらに企画するならばインターネット革命がその中核になること間違いない。
どんな危機も時が経てば過去の中の歴史の一幕として相対性をもち、様々な文化、社会現象を携えて歴史の1ページを語ることになる。歴史的相対性の中で捉えることによって生きる道筋と勇気も生まれるものだ。そんなことを感じさせる展覧会であった。
11月の大統領選でアメリカ初の黒人アフリカ系大統領が生まれることになればまた新たな時代の開幕になるだろうか。そう願いたいものである。


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by jamartetrusco | 2008-10-30 01:44 | Storia (歴史)


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