2010年 02月 11日
二つのある意味では対照的な展覧会をフィレンツェで見た。 ひとつはAlberto Boraleviの小さなギャラリー空間にて開催されている"Fuutou"展。 文字通り「封筒」展である。Boraleviは古い民族織物などを専門とするアンティーク ディーラーであり建築家である。フィレンツェの貴族フレスコバルディのお屋敷の 一階の小さな空間にある展示室。天上高い空間の壁に処狭しと飾られた古織物に 混じって現代のテキスタイル・アーティスト4名の作品が展示されている。 ふたりはローマにて仕事をする日本女性、そして日本からの影響を受けたイタリアの 二名。封筒というタイトルが由縁する包むもの、箱、器などなどを象徴的に表すかに 見える糸や古布やfound objectが紡がれ、織り込まれたオブジェ。 旅の記憶と体験がそこに宿るかのようである。 赤の暖色が占める古い民族織物の壁面のある空間は暖炉の暖かさがあり、旧きヨーロッパのサロンのような小空間である。 これとは対照的にニューヨークのロフトを思わせるような広大なホワイト・キューブの 空間を持つGalleria Alessandro Bagnai。前者のギャラリーが旧市内に位置するのに対してこちらは郊外に向かう 車道に面している。もとは車の修理工場だった空間を改装している。 広々として天上の高い展示室は3つにわかれ、それぞれが一作家の作品展示に当てられる。 今回ここを訪れた理由はこの画廊の取り扱い作家であるPizzi Cannellaの最新作品を見るため である。1955年ローマ生まれのPizzi Cannellaの作風は常にもやもやした色彩の平面に現実世界の物体ーときにはシャンデリア、ときにはやもり、または洋服とった物体が浮かぶといったー象徴性の強いものである。 エンツォ・クッキやミンモ・パラディーノなどのイタリア、トランスアヴァンギャルド派の系列を組むようにも思われる。新作はお茶でよごしたような古色蒼然とした粗地のキャンバスを木枠にはらないまま打ちっぱなしにして壁で釘で留めている。すべてが茶色のパピルスのようである。 壁一面を被うかのような横長の建築線を表した幻想的な空の風景。3枚一組の世界地図。そして天上から床まで届く縦長の作品。日本や中国の墨絵の掛け軸を想起させる。 描かれたモチーフも東洋の影響を明らかに感じさせる即興的な筆描写。笹の葉や扇子を散らした ような襖繪のようなものもある。展覧会タイトルも”Orientale"ー「東洋」とあるから意図は 明白であろう。素晴らしい空間に映える統一性を持った作風がその大きさとともにある種の感動を 与える。 さて展覧会をともに訪れた友人作家のエレナのコメントが心に残った。 「この作品は明らかにこの画廊の展覧会のために、この画廊の空間のために描かれたもので そういう制作にはどこか嘘があるようで自分は好きでない。作家は己の思いのままに制作しなければ。」 確かにホワイト・キューブの「現代アート」専門ギャラリーの空間は大きい作品を置くために 存在するかのようである。作家はその画廊空間のために制作作品も決めてくるというのは本当 かもしれない。とは言え作家が思いのままに制作できるのであれば自ずと巨大な作品を制作する願望が生まれるのも事実である。人間の本来持つ巨大願望志向、メガロマニアの表出は古代からある。一方こんな大きな作品を置ける個人邸宅も少ないのである。納まるところは美術館ぐらいしか ないのか。 ここでまた作家が制作するのはなんのためか、という原点に戻る。 画廊のために作る作品はコレクターに売るため?美術館に納まるため? 誰にも認められなくとも自身の心の叫びが制作を促す、というのが本来の姿であろう。 しかし一旦取り扱い画廊ができればある種の達成感が生まれる。 一体作家で画廊が自分を選んでくれたことの喜びを感じないものがいるだろうか? やはり教会とか貴族などの旧アートパトロンが消えてしまった現代に生きる作家の困難。 美術館、学芸員、美術評論家、そしてそれらに影響力のある金持ちコレクターが 価値を決めていくような状況は「個人」というレベルを無視して組織や官僚といった具体性のない 美術界という体制を相手にすることになるわけだから。
by jamartetrusco
| 2010-02-11 18:58
| Arte (芸術)
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