2010年 06月 02日
ヴェネツィアという都市の魅力は只単に水辺のもとに朽ち果てていく美しさを備えているだけでなく何よりも西の世界と東の世界をつなぐエキゾチズムを背負っている故の面白さがある。海港都市として領土拡大と東西貿易などの富みで圧倒的地位にあった13世紀〜15世紀のヴェネツィア。 その円熟期に活躍した画家で唯一オスマントルコ帝国に渡り、スルタン、メフメト2世の肖像を描き、当時のイスラム文化圏の風俗衣装などの貴重なデッサンを残しているのが画家ジェンティーレ・ベリーニである。親子親族画家の家族である。息子は後世ではジェンティーレより著名度が高いジョバンニ・ベリーニ。義兄はアンドレア・マンテーニャがいる。 彼の残したメフメト2世の肖像。ジェンティーレ作とされ、後に上描きされたためにオリジナルの影は少ないと言われているが、それでもその繊細な筆使いや色調はベリーニを始めとするヴェネツィア派独特のものである。イスラム教国では偶像崇拝は禁じられていると聞くからスルタンの肖像画の存在は珍しい。 コンスタンチノーポルの攻略、1453年の東ローマ帝国の崩壊からオスマントルコ帝国支配となりイスタンブールと改名する歴史上重要な瞬間。その時代を生きたヴェネツィアで当時最も偉大とされた画家のジェンティ−レ・ベリーニ。メフメト2世の元に招聘される画家として任命される。只単に画家として出向いたのではなく対オスマントルコとの円滑な関係を保つために送られた外交大使のような役割を持っていたらしい。イタリア美術に興味を持っていてイタリアの画家に肖像画を依頼したいと希望したスルタンであるから、その望みを叶える意味でも肖像画制作は外交に一役買ったに違いない。 歴史の一幕を語る逸話として、東西の交流の一例として、当時のコンスタンティノーポル/イスタンブールの東西融合の華麗なる文化を象徴するかのような一枚の肖像画。 このベリーニの肖像画を題材にした小説がある。イギリスの作家ジェーソン・ゴッドウィン著のBellini Cardである。和訳されているのかわからないが、失われたベリーニ作のスルタンの肖像画をめぐって繰り広げられるサスペンスである。舞台はオーストリア支配下の19世紀ヴェネツィアで, 歴史にからんだ真実も含めながらの小説であるのでなかなか面白い。 一枚の絵の背後に広がる長い歴史物語。異なる文化や国の香りを感じながら生まれた作品としての 重みを持つとともに、画面の静けさの中にスルタンの人と柄への想像が広がる。
by jamartetrusco
| 2010-06-02 23:36
| Storia (歴史)
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