2006年 08月 08日
ロンドンのテート・モダンにて6月22日から10月1日まで開催されている展覧会"Kandinsky: The Path to Abstraction"ー「カンディンスキー抽象への道」。カンディンスキーの初期から中期の、そして最も優れた作品群の数々を観る素晴らしい機会を与えてくれた。 カンディンスキーは20世紀初期、抽象絵画の展開に重要な役割を果たしたロシア生まれの前衛画家である。1866年モスクワ生まれ、裕福な茶商いの家に育ち、モスクワ大学にて法律と政治経済を学ぶ。30歳にして画家としての道を歩むことを決めるまで法律を教えていたというから人間わからないものだ。 アレの出発も20歳後半、まだまだあきらめてはいけない、などと独白。 その後ミュンヘンにてフランツ・マルクらとともに「青騎士」を結成。そして革命後のロシアへ帰るが表現の弾圧に合い、その後はドイツのバウハウスへと。 ナチス・ドイツの興隆とともにドイツを後にしてパリヘ。最後はフランスにて息をひきとる。20世紀初頭の前衛芸術運動の多くを実際に担い、またその展開に密に関わった人である。 この展覧会を見てつくづく感じたのはロシアの色合いである。さてロシアの色とはどんな色か。 ロシアの民族芸術の色調。色彩豊かなスラブ系文化の民族衣装。ロシアみあげとしても有名な木製のいりこ人形マトリューシカ。これらの色はロシア伝統の色である。 私の好きな画家の一人にシュプレマティズム、構成主義の先駆者であるやはりロシア生まれのカシミール・マーレヴィッチがいる。そしてもうひとり忘れられないロシア生まれの大好きな画家マーク・ロスコー。後にアメリカに移住、抽象表現主義(本人はこういう名称にて区分されるのを拒否し、自身を抽象画家と見なしていなかったが)の作家として現代絵画史になくてはならない存在である。 この3人はそれぞれ表現追求の方法、展開は違っているが、すべてに共通していると思われるのは彼らがその様式を大成する前に手がけた種々の絵に確実に認められるロシアの色である。 ロスコーにおいてはそのカラーフィールド・ぺインティングの微妙な色調にそのままロシアの色が表出しているようにも思える。 カンディンスキーの初期の作品も後の抽象表現の源であることは間違いないが、そこにある色はどこか土っぽいどろどろした色の集合である。 マーレヴィッチしかり。後の白や黒のみの完全なるモノトーンの世界とは見違える初期の絵画。やはりロシアのフォークアートの色の調和ではないか。 そしてもうひとりロシアと言えば頭に浮かぶシャガール、後期に至っては好みの作家ではないがその初期の作品はロシア独特の色調が息づいている。 こうしてみるとロシア、しいてはスラブの文化、ロシア正教に根ざした文化は土壌となる色彩が独特のものに思われてくる。画家それぞれに強烈に残照として刻まれるほどそれは確固たる神話性と土着性を持っているのだろう。コスモポリタンな芸術様式に侵されないフォークアートが根強い文化土壌にあるのだろう。 今更ながら美術史の課題でロシアの民族芸術の伝統についてもっと研究してみたくなった。
by jamartetrusco
| 2006-08-08 00:35
| Arte (芸術)
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