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2006年 10月 17日
いつも読んでいるネット上の英国の新聞、ガーディアンの文化欄に面白い記事を見つけた。 自伝作家のアンドリュー・ノーマン著の"The Finished Portrait"、(完成された肖像画、という意味)がこの秋出版された。この本にて初めて著名な推理小説作家アガサ・クリスティーの人生におけるミステリーを解明してくれるらしい。彼女の推理小説さながら、ある日アガサ・クリスティーはバークシャー州にある自宅から姿を消してしまう。過去80年間に渡り警察も周りも何故彼女は消えたのか、その原因を知ることはできずにいた。 1926年、12月3日の金曜日。その頃には第6作目の「アクロイド殺人事件」が成功を収め推理小説作家としての地位と名声をすでに確立していたアガサ・クリスティー。その日の夜9:45に階上に寝ている娘におやすみのキスをした後、自宅から姿を消す。彼女の乗っていたモーリス・コウリーはその後少し南下したサレー州のギルドフォードにて発見。しかし彼女の姿はない。車の発見されたそばに「静かなる沼」と呼ばれる場所もあったことから、その沼にはまって溺死したのではないか、不実な夫が殺害したのではないか、または売名のための演技ではないか、などなど様々に騒がれた。当時の内務大臣のプレッシャーもあって警察はその当時の一流の推理作家、コナン・ドイル(シャーロック・ホームズで有名)やドロシー・セイヤーに解明を依頼。これもまた面白い。オカルトなどに凝っていたコナン・ドイルはアガサの持っていた手袋を霊媒に持っていったというから笑えるではないか。 結局11日間の失踪の後、彼女はかなり北に上がったヨークシャー州のハロゲイトの保養ホテルに泊まっているのを無事に発見された。それも別名のもとに。失踪のニュースは世界を巡りニューヨーク・タイムズ紙のトップ記事となっているというそんな大騒動の中である。 では何故に? 車の事故で一時記憶喪失になったのではないか、夫の浮気を妨害するための彼女の狂言では、などなどの議論がかわされた。しかしこの自伝の作者のノーマンは元医師である観点から、このアガサ・クリスティーの行動は憂鬱症とストレスから来る一時期の精神性の記憶喪失、Fugue State (徘徊病)であると論ずる。これに似たケースは他にもあったらしい。 この記事を読んでイタリアをここ数年騒がしている未解明の殺人事件を思い出した。コンニェという山のそばの静かな町にて、1月末のある朝3歳の子供が自宅にて無惨にも殺害されるというあまりにも惨い事件であったが、容疑者は唯一母親。しかしこの母親は未だに無実を主張している。この母親もある種の精神不安定にて薬を常用していたという。ということはもしかして彼女も一時の記憶喪失にかかり、自身の犯した子殺しも覚えていないのでは、と思えて来た。 ストレス、トラウマ、憂鬱症、それらの要因がいかに一人の人間の精神状態に影響するのか。 人間の精神は素晴らしい可能性も生み出すとともに底なしの地獄にもなり得る。作家という素晴らしい頭脳に恵まれたアガサ・クリスティーでさえ、心の病には太刀打ちできなかったのだろう。心は頭に作用するが、頭は心には限られた力しかないのだろう。 心の持つ無限なる力とその及ぼす処を見た。
by jamartetrusco
| 2006-10-17 18:47
| Libri (本)
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