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2007年 02月 24日
![]() 2004年来今年で4回目の国際工芸アートフェア、COLLECT。私の訪問も今年で4回目である。1971年に設立された英国の国立工芸促進機関であるクラフツ・カウンシルの主催である。クラフツ・カウンシルは国内の工芸家に関しての情報提供、作家の活動促進、援助を目指すとともに、国内外の工芸分野の教育的、文化的交流を展覧会などを通して行ってきた。 COLLECTという名称からも察せられるように、このフェアの趣旨は工芸の芸術的価値を再確認し、未来の工芸収集家を育てることによって工芸分野全体に活力を注入することにある。いわゆるファイン・アート(純粋美術)に比べてどうしてもマイナーに捉えられてきた工芸のイメージを高めようという目的である。 英国にはアーツ・アンド・クラフツ運動の提唱者のウィリアム・モリスやジョン・ラスキン、また産業デザイナーの草分け的存在のクリストファー・ドレッサーなど装飾美術の世界で思想的な構築をなした重要人物が存在し、またモダン・デザイン、建築の巨匠マッキントッシュ(スコットランド人であるが)を生んだ国でもある。同時に浜田庄司とともに民芸運動の推進者である陶芸家、思想家のバーナード・リーチがいる。英国のスタジオ・ポターの先駆的存在であるリーチは1920年代にセント・アイブスに形成された芸術共同体の主要メンバーであったが、その作家グループの中には彫刻家のバーバラ・ヘップワースや画家のベン・ニコルソンなどもいた。工芸と純粋美術の融合の場となり得る機会であっただろう。 このように19世紀半ば以来、思想の裏付けのある美術と工芸の歩み寄りが活発に展開されていたにも関わらず、近来のイギリスで"Crafts", 「クラフツ」という言葉から浮かぶイメージはマイナー・アート(メイジャー・アートに対して副次的なアート)のそれである。 クラフツというと安価な日常雑器や趣味の手芸といった感が強く、日本の伝統にあるひとつのしっかりした一ジャンルである工芸への概念とは全く異なるものとして発展し、例えば絵画には1000ポンド出せるが、焼き物に50ポンド以上出すなんて考えられないという状況がかなり続いていたのである。そのような状況を打開すべく始められたのがこのCOLLECTである。 開催場所が国立の装飾美術、工芸、デザインのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館内であるというのも注目すべき点だ。国立の美術館の中で販売のあるフェアが開かれるというのは日本では考えられないことであろう。4年間の試みを通じて、美術館を訪れながらCOLLECTを観るというひとつの文化イベントとして定着しつつある。 参加ギャラリーをみると、イギリス以外には近間のスカンジナビアやオランダからの参加者が圧倒的である。作品はジュエリー、焼き物、ガラスが主流である。販売という件になると、今まで培ってきたお客をかかえる地元のギャラリーがやはり有利である。価格的には売れやすいのは100ポンドから500ポンドまで(円にすると感じとして20,000円から100,000円ほど)。 内容的に見ると、少数の作家の作品を展覧会の形式で展示するギャラリーは少なく、広く浅く、多数の作家の多数の種類の作品を集めた店に人々は集まる。作家の芸術性を紹介しようとしているギャラリーにはまだまだ厚い壁である。事実、ギャラリー作家の3人展のような見せ方をしていたオランダのギャラリー,Carla Kochは来年は参加しない、と言っていた。 これは、すでに工芸の収集家を育てようという本来の趣旨に沿ったギャラリーが減っていって、雑多なオブジェを売るギャラリーが優勢となる傾向を示している。ひとつの作家の作品をじっくり見せるという努力なしに工芸のイメージのレベルアップはないような気がするのだが。 過去長年に渡ってギャラリー作家をじっくりと育ててきたロンドンの代表的画廊Barrett & Marsden GalleryとGalerie Bessonが2軒とも参加していない、というのもどこか納得のいくところであるし、またこのフェアの限界を示しているのかもしれない。 ![]() しかし一方、自国の陶芸家を国際的に促進すべく設立された機関による「デンマーク近現代陶芸」を見せるスタンドもあり、これはひとつの興味深い展開である。焼き物の産地の多い日本からもこのような参加が可能であろうと思う。 ![]() また代表する作家の作品色がはっきりしたギャラリー、Flowや日本の工芸を長く扱ってきたKatie Jones、彫刻の庭を運営し、繊細な日本独特の感性に裏付けられ草を使った作品を制作する日本人作家Kazuhito Takadoi氏の作品を扱うHanna Pescher Sculpture Gardenのスタンドも見逃せない。 ![]() そのあり方に改善の余地など必要があるかもしれないが、このような試みは大変興味深く、また毎年続けることの努力とエネルギーは素晴らしい。そして毎回訪れる度に目を惹く作品との出会いもある。イギリスにおける工芸の促進ということにどれほど貢献するかはまだ未知の段階であるが、もう少し追い続けてみたいと思っている。
by jamartetrusco
| 2007-02-24 04:37
| Arte (芸術)
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