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2007年 03月 05日
![]() ベルギー、アントワープ生まれの画家ヤン・ファン・ケッセル(1612〜1679)はその生き物の描写で特異の才を示している。 ミュンヘンの今回の旅のもうひとつの収穫。アルテ・ピナコテーカのギャラリーの入り口付近の暗がりに4枚のキャビネット・ペインティングがあった。ケッセル作とある。 4つの大陸ーアフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパーを動物生態系にて区別し動物絵巻でも見るかのようなとても興味深い作品である(上の図はアメリカ大陸)。中心となるパネルの周りを16枚の小さなパネル絵が囲んでいてひとつの大陸を表しているのである。中心絵はかならず絵画や宝の山が散乱する風景でそこにそれぞれの大陸を代表する人物が描かれている。 ![]() とりわけ興味をそそるのはやはり周りの16枚の小パネルに描かれる生き物の描写である。写実的で細密画のごとき手法のもとにありとあらゆる動物、鳥、虫、魚などが画面に描かれている。上の図はアジア大陸の中からの絵はがき。かえるの反り返る様子がコミカルで鳥獣戯画を想起させる。 4つの大陸に生息する生物の知識は当時からあったのだろうか。アントワープは大きな港町として15世紀から17世紀にかけての大航海時代に黄金期を迎え、ヨーロッパの商業流通の中心地となるのであるから、ケッセルのもとに異なる大陸からの資料や知識が入っていたことも不思議はない。 帰ってからさっそくこの画家について調べてみた。ピーター・ブルューゲル(1525〜1569)の2番目の息子であるヤン・ブルューゲル(1568〜1625)が祖父に当たるということなので、有能な画家の家系の血を受け継いでいることは明らかである。この美術館にも多くのヤン・ブルューゲル(父)の作品があった。その子であるヤン・ブルューゲル2世がケッセルの叔父に当たり、また絵画の師匠であったというから、様式も父、子そしてケッセルと似通ったものがある。 1645年にアントワープの聖ルカが守護聖人である画家のギルドのメンバーになり、多くの花の静物画から通称「花の画家」と呼ばれたらしい。その画題は多岐にわたり、花の他に、動物、魚、昆虫、鳥などの生物画、人間の五感、四大要素、四大陸、などの寓意画。ノアの箱船に乗船していく動物たちの図も残している。 ![]() そして圧巻は自然科学の資料ともなり得る昆虫画。 イギリス、オックスフォードにあるアシュモリアン美術館、及びケンブリッジにあるフィッツウィリアム美術館にまとまった数の昆虫画が収蔵されている。小さいものでは9 x 13cm、大きいものでは19 x 29cmぐらいの銅版に油彩のパネル画でもともとは上記の四つの大陸のもののように家具にはめ込まれたキャビネット画であったのだろう。 ![]() このとんぼが野いちごに宿る姿など芸術性が高いだけでなく、17世紀に生息する様々な昆虫の種類を見極めるのに重要な資料だろう。 そしてもうひとつ面白かったのはあまりにも虫に拘りすぎたのか、自分の署名まで毛虫文字を使ったという事実だ。毛虫嫌いの方にはお勧めしないが。 ![]() 絵画を見るに当たって最近自分の嗜好が変わってきたな、と思うのは今まで名を知らなかった作家や知っていても興味が少なかった作家に目がいくのである。新たな作家や作品の存在を発見していくことのわくわくどきどき感が頭と心の琴線に触れるのかもしれない。新しいことを知るときに沸々と湧く好奇心のエネルギー。これがあるうちは頭の硬直も防げるかもしれない。まだまだ未知の画家たちに会える機会とその瞬間の喜びを楽しみに。
by jamartetrusco
| 2007-03-05 01:27
| Arte (芸術)
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