2007年 03月 13日
パリを訪れる度にその美術館の質と量に驚くのである。そして何よりもフランス人の発想の大胆さとモニュメント作りの才能に感心する。 ポンピドーセンターがオープンしてすでに30年が経つが、オープン当初のこの建物に対する賛否両論。建物の内部に隠れているべきチュープが全面にうちだされた醜い建物、という批判。 それが今ではパリにはなくてはならない文化芸術センターとなっている。今年開館30周年記念として展示を大幅に変え、ヨーロッパの近代美術の流れをそれぞれの美術運動にくくりながらコレクションを通じて見せており、近代美術の動向が一目でわかる展示となっていた。 その後1986年に開館したオルセー美術館は元駅を改装して19世紀から印象派にかけての絵画、デザインを見せている。広大な駅構内を美術館にするという発想もその当時は大胆であった。 そしてやはり80年代後半に完成したルーブル美術館の中庭の景観を大きく変えたガラス張りのピラミッド。これも賛否両論かもした建築だった。しかしこの建築はガラスの美しさを利用してルーブル宮に新たな美の要因を作ったと思う。ピラミッド階下の中央ホールから見たいコレクションのウィングに上がっていくことができる。ほとんどの人は「モナリザ」のある部屋を目指すようであるが。 さらに昨年6月開館されたばかりのQuai Branlyケ・ブランリ美術館。もともとある民俗学博物館のコレクションを収蔵展示するためにエッフェル塔のすぐ横に新しく設計建築された美術館である。 あらたなパリの魅力として観光のスポットとして人気を呼ぶことは間違いない。 展示は横長の建物のせいか、展示ケースごとの空間が狭くすこしでも人が多いと見にくいし、小さな展示室への出入り口が狭すぎてこれも難ありであるが、全体に現代性を重んじた空間は好感がもてる。民族学博物館が多々あるようなカビ臭い研究室のイメージは一層され、アフリカ、アジア、アメリカ、オセアニアの民族学的な収集品がオブジェとしての美しさを発揮すべく魅力的に展示されている。 古い建物を利用し、美術館に改装したり、また全く新たに建物を作りコレクションを展示する、このような文化遺産への国家の大胆な政策ー美術館を町の、ひいては世界のモニュメントとすべく反対を招くような斬新さを取り込む政策ーはフランスならではである。 にわかに地元になるが、フィレンツェのウフィツィ美術館は世界で特殊である。というのもフィレンツェ市の歴史と発展にそのまま直結した形で生まれたコレクションであり、建物であるからだ。というより、メディチ家の力の偉大がそのまま美術館になったようなものである。メディチ家の背後にある精神性や哲学も含めて。 (ウフィツィ美術館の窓からヴェッキョ橋を眺めて) 先日お目にかかったナターリ館長がいみじくも指摘されていた通り、収蔵品の多くが美術館の外に見渡すことのできるフィレンツェの風景と関わりながら生まれて来たものであり、その意味で、フィレンツェと表裏一体、「内」と「外」が互いに共鳴し合う美術館である。世界広しと言えどもなかなか存在しないタイプの美術館かもしれない。というのも世界に誇る美術館のコレクションの多くはその国の最盛期に他の国に侵入し、略奪した結果であったり、多額を出して購入した結果であったりするからだ。 ウフィツィ美術館はフィレンツェ市民が誇ってしかるべき歴史背景に裏付けられている。 さて、ここのところ立て続きにアラブ首長国連邦の首都アブダビにて新美術館建設の構想の記事を読んだ。 ひとつはスペイン、ビルバオのグッゲンハイム美術館の建築を手がけたアメリカの78歳になる建築家フランク・ゲーリーが今度はアブダビに新たにできるグッゲンハイム美術館の設計にも携わっているというニュース。ゲーリーの建築は一目でわかる特異な空間構成で有名であるが、今回の建物はアラブの町の持つ伝統的で有機的な広がりに似せ、自然光や空気などの存在が感じられる開放的な空間にしたい、従来の箱的、閉鎖的美術館とは趣きを異にしたいそうである。 もうひとつのニュースはアブダビになんとルーブルの別館を作る計画案。これにはフランスでもかなりの反対の声が上がっている。政治的、外交的メリットを考えてのことで芸術文化の意義をないがしろにする行為であり、美術品をお金で貸し出すのか、という尤もな批判である。 ルーブルのコレクションを期間限定で貸し出すという意向らしく、開館は2013年予定。 確かにルーブル美術館の名品がある期間貸し出されて見れないというのはパリ市民、フランス市民もしくは此の地を訪れる人々にとっては大問題である。 ウフィツィ美術館のレオナルド1点貸し出しの問題どころではなくなってくる。 いずれにせよ美術館の生まれるところにはお金あり、は常の時代も同様だろう。
by jamartetrusco
| 2007-03-13 00:11
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