2007年 10月 21日
ベルトルッチ監督のLast Emperorという映画があったがそれと対照的にFirst Emperor, つまり中国の最初の皇帝、秦の始皇帝のことである。 最近の中国ブームにあおられて中国関係の展覧会があちこちで開かれているが、その中で いかにも観覧者数の成功を最初から祝うような展覧会が大英博物館で開かれている。 来年4月6日まで開催の"The First Emperor"展。考古学的研究を見せるのではなくどちらかというと一点豪華主義の展覧会であり、もう少し学術的説明があっても良い感じはするがそれでも兵馬傭の実物を見れ、始皇帝の偉業を実体験するだけでも価値がある。 兵馬傭はご存知の通り秦の始皇帝の墓に埋葬されていたテラコッタ製の軍隊の等身大の像。 墓の広大さだけでも頭がくらくらする。なにしろ56キロ平方の敷地に7000体の像が埋まられていたというのだから。今までにまだ1000体ほどしか発掘されていないという。これらの兵馬傭は死後も国を治めることを信じていた皇帝がそっくりそのまま自分の軍隊と馬を30年の年月をかけて作らせ、自身の墓の周りに埋葬したものである。顔の作りや表情も一体ずつ違うというのだから凄い。 1974年に畑を耕していた百姓がこの陶像の頭をたまたま発見した。それから始まった発掘作業。20世紀最大の考古学的発見として度々話題となってきた。 秦という言葉が英語表記ではQin、発音はChinであることから中国の国名Chinaの由来があることも案外知られていない事実であろう。 そして始皇帝のピラミッド型の墓自体は周りに水銀の川が流れていて人工の星空があるという伝説もある。現在まで未発掘の謎に包まれる始皇帝の墓である。将来この墓自体も白日にさらされることになるのか。 兵馬傭の像を実際に目前としてその精巧さにまず驚嘆する。細部まで細かく描写が行き届いている。そして写実的でありながら様式化した表情の顔。馬も驚くべき迫力がある。 この陶像の素晴らしさもさることながら、心に残ったのは始皇帝の超人的な思考体系である。 13歳にして初めての皇帝となり49歳にて死すまでのその功績。 流れ作業に則った大量生産の仕組みを作ったのもこの皇帝である。 このテラコッタの彫像の比類なき存在感をみて芸術作品を生むには良きにしろ悪しきにしろ独裁者(否定的隠喩が含まれることが多いがそうばかりでない)が必要であることを痛感した。それも啓蒙精神に満ちた独裁者が。これだけの作品をそうでなければ誰が生むことができただらろう。 ひとりの偉大な心ーそれが狂気に満ちたものであれ、力への妄想であれーのもとに為さずには為せない芸術的創造、文化熟成が存在することは歴史が語っている。 エジプトのファラオしかり。フィレンツェのメディチ家しかり。桃山時代の秀吉しかり。 全く違った分野であるが、現在最も刺激的とされる現代アートフェアのFriezeを見た後で、現代アートの不毛をつくづく感じてしまった。もちろん単に個人的意見であり、現代アートの動きに直接的に関わっている作家や画廊の人々にはひとつの揺るぎない歴史の構築であるに違いないのであるが、客観的な立場から見るとなんだか虚ろなものに見えてしまうのは最近のアートの金権至上主義のせいか。資本主義と民主主義に則った世界には真の力ある芸術は生まれないのかもしれない。 多かれ少なかれアートの世界に携わるものとして、そして今生きる作家の妻としてこれからどうして生きていくか、どのような目的を持つべきか、難問である。2000年以上前に作られた兵馬傭の実体を前にして芸術の普遍性を考えさせられた。
by jamartetrusco
| 2007-10-21 21:14
| Storia (歴史)
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